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瀬水いう儀個人作品 -20140504- |
◆ is14: 星ノ欠片 ◆ 星を手に入れたいと思ったことは、ありませんか――? 暗がりにてかすかに光放つ星ノ欠片を、小壜に封じました。 星は光を好みますので、さびしがらぬよう光にあてたのち、静かに暗がりに安らえてくださいますよう願います。 |
◆ is14: 星ノ欠片 ◆ はるか遠き宇宙を旅してきた彗星、その彗星から降り立った小さな星たち。 流星が携えてきた物語を、不思議な品を扱う店の主が、物語ります。 聞き手は、星を欲しがった少年と、かつての少年だった青年。 |
◆ is14: 星ノ欠片 ◆ 星ノ欠片の扱いは難しいものではございませんが、いくつか、お心に留めておいていただきたことがございます。 星とともに封じました宇宙ノ雫は、人体に有害なものではございませんが、万一、蓋が取れることがございましたら、お手持ちのちり紙等にて拭っていただけますよう、お願い致します。 |
◆ is14: 星ノ欠片 ◆ 物語るは、まずは、星を欲しがった青年。 そして、店主の物語るは、青年の知る星とは、いささか異なる星の話。 さて、いかにして、星ノ欠片を手に入れたのか、由来をもともに語ります。 |
◆ is14: 星ノ欠片 ◆ どうしても星を手に入れたかったら……さて、どういたしましょうか? 店主もかつて星を求め、あきらめずにいたものです。 |
「私も、ずっと星を探していたんですよ」
店主は、店内にいくつかあるランプの中でも一番つよく光るランプに照らされている棚へ行き、手のひらよ
りも小さな箱を取りあげました。箱には蓋がされておらず、中に、硝子の小壜がおさめられています。
「あきらめられずにずっと探して……やっと、欠片を手に入れたんです」
秘密を打ち明けるときの、ひそやかで、熱を帯びて、いたずらっぽい声でした。
店主は、小鳥の卵でも隠すように、手のひらをくぼませた中に小箱をおさめました。二枚貝が合わさる形で、
もう一方の手もくぼませて手を重ねます。
「星が驚きますから、そっとですよ……」
蓋にした右手の、親指と人さし指の隙間をほそく開いて、店主は少年の目の近くに、合わせた両手を持って
いきました。
少年は顕微鏡でものぞくように片目を閉じて、店主の手の中をのぞき込みます。
ぱちりと、子供はまばたきをひとつ。
「――っ」
声をあげかけた少年から手を遠ざけて、店主は唇だけを動かして、静かに、と告げた。
無言の注意に、少年は慌てて両手で口を押さえます。驚きが、星になって飛び出してしまわないように。
店主と少年は秘密を共有したものどうしの笑みをかわして、うなずきあいます。
じりじりしながら順番を待っていた青年は、差し出された手の中の小部屋を、息を止めてのぞき込みます。
初めは、暗いだけで何がなんだかわかりませんでした。
目の錯覚かと思って、まばたきをくり返します。何度確かめてもそれが消えないとわかったとき、青年も子
供同様声をあげかけました。
「……っ」
はじかれたように顔を離して、口をおおいました。
「それは……」
小声で店主に答えを求めても、店主は、おだやかに笑うだけでした。
手のひらに囲まれた宇宙には、本当に小さな小さな星が、光っていました。
見知らぬ地上に取り残されて戸惑っているように、ぼんやりと頼りなく。
天空にあるときの輝きには及ばないけれども、遠い空を恋うように光っていました。
「星の欠片です」
店主は謎めいた笑みを浮かべて、黒いビロード張りの、宝石を載せるようなトレイに小箱を載せて、カウン
ターにそっとおろしました。