鉱石ランプ
-20120812-



◆灯記12hd-01: 琥珀鉄道の夜







鉱石ランプ
-20120812-





◆ 灯記12hd-01: 琥珀鉄道の夜◆
鉱石は、水晶または黄鉄鉱でした。
この鏡のような輝き。
今回は本と、作中でのお土産鉱石のセット形式です。
本に書き漏らしたのですが、
「鉱石は飲食物としての設定で作中に登場していますが
 見立てとしてのものですので、口に入れないでください」
    鉱石ランプ商會と、半月ペンギンよりのお願い。







◆ 灯記12hd-01: 琥珀鉄道の夜◆
半月ペンギンのラベルです。
首許にはリクエストした半月をつけてもらってますv
ブック型の箱というのはなかなか憧れの箱です。
琥珀鉄道という優雅な汽車にふさわしい見栄えです。






◆ 灯記12hd-01: 琥珀鉄道の夜◆
このように、箱にはラベルも封入してあります。






◆ 灯記12hd-01: 琥珀鉄道の夜◆
カバーの箱も、うつくしい金色で。
百合のシーリングが映えますね。






◆ 灯記12hd-01: 琥珀鉄道の夜◆
ページ数無制限だったため、しっかり読み応えのある量に
なった本です。
写真ではうまく撮れていないのですが……紫色から上部にかけての
水色のグラデーションにうっとりしました。(表紙は月が作ってくれたのです)







◆ 灯記12hd-01: 琥珀鉄道の夜◆
中表紙です。
月からもらったペンギンデータを、どーんと真ん中に据えて
デザインしました。
もっとペンギンを大きくしたかったです。

ペンギンペンギンと訴え続けると、瀬水のペンギン好きに応えて
月がたくさん書いてくれるんじゃないかと期待しているのですが
「そんなに描き分けられない」と、予防線を張られました……

私はあと、飛行船あたりか、空を飛ばない方の船での優雅な旅もいいと思います。
と言っておくと、どなたかリクエストしてくだされば、
ペンギン登場リクエストあったよ!と言えるのですが(笑)







◆ 灯記12hd-01: 琥珀鉄道の夜◆
銀河鉄道の夜、と言ったら、星座は白鳥座ですよね。
宝石箱アルビレオ。

今回は、宮沢賢治氏への愛と感謝を込めて、なので、『銀河鉄道の夜』と
からめて、色々と楽しみを仕掛けました。







◆ 灯記12hd-01: 琥珀鉄道の夜◆
勢揃いです。







◆ 灯記12hd-01: 琥珀鉄道の夜◆
黄鉄鉱の箱は綿。
水晶の箱は、薄紅色の紙が、クッション材でした。







◆ 灯記12hd-01: 琥珀鉄道の夜◆
かなり透明度の高い、いい水晶です。
今回は水晶も黄鉄鉱も、より抜きの美人石たちでした。
写真のモデルはゴンザーガ産。透明度が素晴らしい。





少しご紹介を。

 琥珀号は、始発駅から終点までの旅程で数駅に停車する。いくつか見どころがある旅だが、第一の見どころは、 汽車自体だ。どの車両を見ても、うつくしい調度が整えられ、汽車の中にいるとは到底信じられない。限られた 空間であるため、通路が狭いなどの制約はあるが、不自由さをおぎなって余りあるくつろぎが用意されている。  落ち着きある車内の雰囲気を壊さないよう、クロシェットは、静かに汽車内の探検の旅を始めた。車両ごとに 調度が異なり、敷かれている絨毯の模様まで異なる。ラウンジ車両は磨き込まれた木の床で、ソファなどは置い てあるが、少し軽めの雰囲気になっている。大人たちが談笑を楽しむのかな、と、クロシェットは思った。  リラックス車両は、ラウンジ車両よりも色の濃い木材が使われており、照明もいくらか落としてある。床には 靴音が立たぬよう絨毯が敷き込まれ、ソファはキャビンのソファよりもふかふかで、腕木にもしっかり布が張ら れている。アップライトながらも、壁材と似た色の木で装飾されたピアノまであった。クロシェットは、琥珀号 に恥じない格好をしてきたが、雰囲気にそぐわない自分の年齢が居心地悪く、そうそうにあとにした。  琥珀号でもとりわけ有名なのは、食堂車両だ。糊の効いた真っ白なクロスが掛けられたテーブルが、車両の左 右に整然と並んでいる。控えめに彫刻の施された木枠の背がついた椅子は、背にも座面も、食事の間ずっと座っ ていても疲れない張りのある詰め物がされている。琥珀号の食堂車は、料理のおいしさにも定評があるが、調度 でも有名だ。車両の扉は、様々な種類の木材を切り抜いて嵌め込んだ寄木細工で飾ってあって、色数の多さや、 模様の細かさで輝いて見える。また、区切りの磨り硝子が大きく設けてあるが、これには白鳥の姿が浮き彫りに されていて、白鳥の首の曲線はうっとりするほどにまろやかなのだった。  車両を抜けようと、クロシェットが連結部の扉を開いたとき、向こうから来た誰かとぶつかった。扉を開きな がらも、その模様に気を取られてよそ見をしていたクロシェットは、慌てて謝った。 「へえ、子供だ」  しかし、相手から返ってきたのはそんな言葉で、クロシェットは目を瞠って、顔をあげた。  連結部に立っていたのは、クロシェットよりも背は小さかったが、年のころは十二か三、彼と同じくらいの少 年だった。勝気そうな、黒い瞳をしている。  琥珀号にはほとんど大人しか乗っておらず、自分と同じ年ごろの子供に会ったことと、普段聞き慣れているよ りも抑揚のはっきりした喋り方とで、クロシェットは驚いてしまった。 「君も……」  琥珀号の乗客なの、と、訊きそうになってしまったのは、少年の身なりや振る舞いが、小さな紳士というには、 ちょっと元気過ぎる印象を受けたからだった。好奇心は失礼になる。クロシェットは口を噤んだが、少年は気に した風もなく、クロシェットの腕をつかんで引っぱり、歩き出した。 「ねえ、君、どこへ……」  引っぱれるままについていきながら、クロシェットは彼の背中に声をかける。 「円窓はもう見たかい? あの窓は琥珀号の中で、一等か二等目にいいよ」 「まだ見てないけど、あの、」 「ジオだよ」  黒い巻き毛が自由にはねている髪の少年は、足を止めないまま、クロシェットを振り向いた。 「ジオ?」  クロシェットが聞き返すと、少年は眼差しだけで、クロシェットに問いかけてきた。秘密がたくさん詰まって いるような、きらきらした目だった。クロシェットは幾度かまたたきして、やっと気がついた。 「僕は、クロシェット」  少年はひとつうなずいて、笑った。クロシェットの学校友達は決してしないような、悪戯っ気のある、崩れた 笑みだったけど、とても楽しそうだった。 「行こう、クロシェット」  クロシェットは、つられて、なんだか楽しい気持ちになって、大きく足を踏み出した。 「うん、行こう、ジオ」  ふたりは、大人たちに叱られない程度に、でもなるたけの早足で、車両をどんどん抜けて行った。  先頭車両にほど近い車両の窓が、ジオのお目当てだ。ここまで来ると、機関部の立てる音も轟々と大きく、足 元も車輪のたくましい動きを、より伝えてくるようだった。  薄暗い車両の壁にくり抜かれているのは、円形の縁に沿って百合の花が彫りつけられた円窓で、ふたりが顔を 寄せあってのぞくのがやっとの大きさだ。ふたりは踵をあげて、びっくりするほど冷たい硝子の窓に額を押しつ けて、声をあげた。  外は、まるで星野原だった。  深い紫紺色の闇の中に、小さな黄色い星がたくさん散りばめられていた。走る汽車の速さで、間近の星々はみ な、流星のように光の尾を引きながら、円窓の外を流れ去っていく。硬質な黄色い光はあるところではまるで見 えず、あるところでは多く咲き、次々に流れていった。 「あれがみんな、光る石なんだねえ」  感嘆のため息で、クロシェットは窓硝子を曇らせた。  汽車が星野原を行き過ぎると、外はほのかに明るくなって、様子がぼんやりとうかがえた。  よくよく目をこらせば、車窓の外は夜ではなく、空に輝く星もなく、地上の景色ですらない。  汽車を囲む岩肌が離れた先にかろうじて見分けられる、汽車が幾本も並走出来る広い隧道のようだった。汽車 が走り抜ける隧道は、ところによってはぴかりと光るものがあって明るんだり、あるいは桔梗色の暗に近くなっ たりした。全体に、暮れ残した一瞬間のようにかすかに明るいが、たまに光るものがあると、それが大層な灯り となるほどには薄暗いのだった。  ますます窓硝子に釘づけになって外をのぞくクロシェットに、ジオはちょっと首を傾げて笑った。 「もっとよく見えるところがあるよ」  言うなり、クロシェットの腕を取って、今度は最後部へと向けて、通路を逆戻りし始めた。  ジオの唐突さに面食らいながらも、クロシェットは、宝箱の中身を次々取り出して見せてくれるようなジオに、 笑顔でついていった。  最後部の車両には数名の先客がいたが、ジオは空いている場処へと、クロシェットを引っぱっていった。 「ほら、」  最後部の車両は展望車となっていて、窓枠には大人が肘をかけられるくらいの高さと、その下とに転落防止の 棒が渡してあるきりで、硝子が嵌っていない。硝子がないだけ、外の様子がよく見えた。  少し冷たい空気にくしゃみをひとつして、クロシェットは低い位置にある棒に手をかけた。 「君の言うとおりだ、よく見える」  手をのばしても遠い隧道の削り立てた岩肌自体も、ぼんやりと内から、ごくかすかに光を放っているようでは あるけれど、隧道を照らすのは、不規則にあらわれる岩肌の光だ。形も色も様々な、その光の一種が、先ほどの 星野原の星であり、光る鉱石だ。  硝子のない展望車からは、琥珀号の走る世界がよく見えた。  ふたりが琥珀号を先頭から末尾の車両へと移動しても終わることのない、ながいながい隧道。地上では存在し 得ないほどの隧道の長大さは、琥珀鉄道の走っているのが、ただの隧道でない証だ。  岩盤に穿たれた天然の洞穴を彫り広げた、とてつもなく長い地下世界の隧道だった。  地下の世界は、空気も慣れたものとは異なって、ひんやりと肌を刺す。  琥珀号は、地下の夜を行く。  太陽のない隧道をほのかに照らすのは、彼処で光る鉱石で、それらの光は地下にふさわしい、つべらかな感じ がする。  どうにか互いの顔の見分けがつくくらいの薄暗がりに、ちらちら光る粉が舞っているが、たまに、かがやく霞 のひとかたまりがある。霞の中で、ときおり小さく火花が爆ぜる。空気中に散り散りになる霞は何かしらんと、 クロシェットが目で追いかけていると、不意にジオが窓から身を乗り出し、素早く腕を閃かせた。 「やあ、虫入りだよ」  開いて見せたジオの手の平には、精巧な翅や足や胴体やの何もかもを、煮詰めたシロップでこさえたような、 濃い蜜色の蜂がいた。ジオの手の平は、手についた粉や蜂の放つかすかな光で、のぞきこむ二人の顔をぼんやり と照らした。