-20120504- |
瀬水いう儀個人作品 -20120504- |
◆ is: invisible◆ 本と、マッチ箱入りの珊瑚とのセットです。 |
◆ is: invisible◆ かしゃかしゃ振って遊びたかったので、フィルムで蓋をつけました。 |
◆ is: invisible◆ 中にはm、白化した珊瑚と、貝片と、ビーズとシーグラスの欠片 |
◆ is: invisible◆ 本 ランプではたいてい、話を書いたあとに圧縮します。 『一夜湖』が今までの最高記録で、多分1/3か3/5くらいには 縮めましたが、これは25ページ分の前半をまったく落として、 半分以下にしました。 そしてその前に、書きあがった話の雰囲気がいまひとつ狙いと 違ったので、まったく別の話をまるまる没にしました。 とても素敵な「人魚の檻」という言葉をお姉ちゃんがくれたので。 そもそもお題の「人魚」も出してもらいました。 『赤いろうそくと人魚』のような、和風の人魚話です。 未明のあの話、とても好きです。 おかげで、人魚というと、暗いイメージがつきまとっています。 |
末の息子は、燭台の灯りのもとで、人ならぬものを見た。
室の真ん中には、すべらかに磨き立てられた、赤い珊瑚でこしらえられた檻。
猫でさえも這い出るのがようやっとの隙間のほどに、珊瑚と珊瑚の間を狭く作られた格子の檻。珊瑚の
枝の間にはりめぐらされたのは、五彩の糸と、連ねられた珠と、彼処にからめられた勾玉。
ゆらゆら揺れる蝋燭の、橙色の灯りで、珊瑚の檻は形の定まらないものに見えた。
あでやかな珊瑚の檻の中には、少女がひとり、閉じ込められていた。
長く垂らした髪に、雪をかためたような白い肌。潤いのある大きな瞳。
いつもと違う来訪者に驚いて声も出せぬ唇は、珊瑚の赤にも劣らぬ真紅。
「どうして、」
閉じ込められているの、と、訊ねようとして、末の息子は、言葉を失った。
赤い着物を着せられた少女の、腰から下に、目を奪われた。
茶室に炉を切るように、畳に切られた四角い穴。穴の中には子供がすっかり入るほどの、大きな大きな、
水瓶がおさめられていた。身じろいだ少女の動きで水音がして、水が入っているのが知れた。
少女は畳の縁に腰掛けて、脚を水瓶の中へ入れていた。その脚は、少女が羽織っているのと似た赤い布
が巻かれていると見えたのだが、すぐに違うと知れた。
少女の脚は、一本しかなかった。加えて、赤い布と見えたのは少女の脚の、肌の色だった。
揺らぐ蝋燭の灯りをきらきらと跳ね返す少女の脚には、鱗があった。鱗の一枚一枚が、まるで金糸で縁
取りしたように光っていた。
少女の脚は、魚の尾だった。
人魚だった。
せっかくなので、お蔵入りした前半部分でも。 ほの暗い雰囲気を書くのが楽しくて長々と書いてしまったので、 削ってちょうどよかったかも知れません。 人魚の昔語りが終わってから、これの続きに戻る予定でした。 |