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瀬水いう儀個人作品 -20111231- |
◆ is: invisible◆ 箱版と、本版がありました。 3箱だけ作ったので、セットではなく。 箱その壱 本のお話に出てくるものと、イメージを合わせた素材を主に入れました。 標本ぽく、ナンバリングをつけるのが楽しかったです。 |
◆ is: invisible◆ 箱その弐 |
◆ is: invisible◆ 箱その参 「何の基盤ですか?」と、訊かれるのは、大体男性でした。 こういうところに興味の違いが出るのはおもしろいですね。 |
◆ is: invisible◆ 本版 表紙は3色でした。 |
◆ is: invisible◆ グランジっぽいかすれにしたかったんですが、 クラフト紙が予想以上に滲んでしまったために、 苦労の成果が出ず…… |
◆ is: invisible◆ 飾り罫二種。 「見えないもの」をお題に、短いお話をいくつか。 色んなパターンの小物を出せるのは楽しいです。 |
――invisible――
店名は、まるで客をからかっているようだった。
扉に嵌め込まれた曇り硝子からは、店内の様子はうかがえず、呼び出しの鈴さえない。
店主は……まるであやしげな風体だった。
店の中にいるというのに、シルクハットにタキシードスーツ。いったい、どこの魔術師だと言いたく
なるのは、両の手にはめた白い手袋。ご丁寧に、ステッキまで持っている。
痩身長躯で、背筋は伸びて、シルクハットを目深にかぶり、声を聞いても年齢がまったくわからない。
怪しげな語りをする店主ではあるが、店のものをいとおしむ気持ちに偽りがないことは、彼の言動す
べてから伝わってくる。
薄暗く、しかし、埃をかぶったものなどいっさいない店内。
由来のさだかではない品々は、抽斗にひっそりしまわれていたり、堂々と飾られていたり。
古びたもの。新しいもの。
雑多なものが、自らの存在に満足しきって、そこかしこで、新たな主人のもとに渡るまでのひととき
を眠って過ごしている。
ひとたび、店主にこれはどのようなものかと問えば、滔々と彼は語り始める。
短い話や長い話、目に見えない由来を持つ、不思議な品々の話を。
◆虹の化石
虹をご覧になったことは、ございますか?
そうです。あの、空に架かる色のついた橋でございます。
時代や地域によって、虹は吉兆とされたこともございますし、不吉であると忌まれることもございます。
色は二色とされたり、七色とされたり、さだまっておりません。
虹の出来方にも諸説ありまして、水滴に光が反射したものであるとか、金の皿から立ちのぼるですとか、
果ては竜の一種であるとも言われています。
いまだ謎の多い代物でございますが、ひとつ、確かなのは、虹は足が速いということでございます。
足と申しあげると語弊がありますか。
現れるときも消えるときも、見る者にその瞬間をつかませないのは、私めの趣味である奇術に通じる心
意気を感じますが、その昔、あれらは、まださほど足が速くなかったのでございますよ。