-20110814- |
◆Little Egg
◆星天航路図
◆is08 猫のオルゴール
◆ 灯記11hd-01: Little Egg◆ 「Royal Egg」第二弾ということで、第一弾の卵たちよりも孵化しやすく、 かつ、ちまくってかわいい子たちを孵してみました。 孵化する子は表紙の白い子だけど、飼い主の育て方によって、どう成長するか わからないというのがポイントです。 それぞれの飼い主の日記形式で、孵化した子たちの紹介をしました。 今回は五種類。 犬タイプ、うさぎタイプ、猫タイプ、リスっぽい子、狐っこ |
◆ 灯記11hd-01: Little Egg◆ うさぎタイプ。 尻尾は二本……だっけ、三本だったかも知れない。あるそうです。 この話の飼い主はおじいちゃんで、うさぎの名前を「白いから白玉」とつけて 奥さんに怒られたりと、頑固ものの割にかわいらしいので、月遠にも、 書いた当人の瀬水にも気に入られている話です。 |
◆ 灯記11hd-01: Little Egg◆ りりしい犬タイプ 日記は、一週目、二週目、三週目と、どの飼い主も三週間分です。 この犬の飼い主は、働いている娘さん。 この話が一番はじめに来ているので、卵の入手経過や、孵化する経過を 詳しく書いています。 |
◆一週目
雪洞(ぼんぼり)、私がどうやってあなたと出会ったかから、書くね。
昨夜、私は初めて仕事に行った街で道に迷ってしまって、お腹が空いて、雪が降ってきて寒いのに駅
が見つからなくて、融けた雪が靴の中にまで染みてきて爪先は凍っちゃいそうで……とっても、みじめ
だったわ。
道を訊ねようにも誰も歩いてないし、お店で休みたくても、みんな閉まっちゃってたわ。
雪がひどくなって、あたりの様子もわからなくって、そうしたら、遠くにランプの灯りがついていた
の。お店の看板も確かめずに飛び込んだわ。
もう店じまいをするところだったみたい。びしょ濡れで、真っ青な顔の女性が突然お店に入って来た
から、お店の人は、まるで、お化けでも見たような驚きようだったわね。
親切な人でね、私が事情を話したら、暖炉の傍に椅子を出してくれて、駅までの地図を描くのに時間
がかかるから、お茶でもどうぞって、お酒をちょっぴり垂らした紅茶を淹れてくれたの。かじかんでた
指先が火傷しそうなくらい熱いカップで、私、涙が出そうだった。
お店の中は、不思議なものでいっぱいだったわ。古い鍵の入ったオルゴールや、針のない青い文字盤
の時計や……あなたは、そこに他の卵たちと一緒にいたのよ。
内側から光ってるみたいな、不思議な卵だった。そっとさわったらね、指先が暖かかったのよ。お店
の人の話では、育てるのに手間がかからないそうだから、あんまり家にいられない私でも大丈夫だって。
私ね、嬉しかった。だって、ふれた瞬間、あなたを連れて帰りたいって思ったの。
あなたの名前は雪洞。お祖母様の故郷には、そういう名前の照明器具があったんですって。とっても、
暖かい光だそうよ。寒い夜に、私を迎え入れてくれたお店の光みたいな子に、育ちますように。
◆二週目
雪洞、私、先週ね、初めて仮病を使って仕事を休んじゃった。あなたが孵化しそうだったから。卵が
ときどき揺れたり、内側から殻を叩く音が聞こえたりして、気が気じゃなくって。
殻から出てきたあなたは、真っ白くって、とっても小さかった。
私の手のひらにおさまっちゃいそうな小ささだった。
私が恐る恐るさわろうとしたら、あなた、まずあくびをしたのよ。覚えてる?
ふわふわしててやわらかくって、生まれたばかりの子猫とおんなじね。すぐには立てなくって、毛糸
玉みたいだったわ。
雪洞、あなたの耳の形が、ちょっと変わってきた気がする。こんなことなら、計っておけばよかった
かしら。説明の紙には生まれてから一週間くらいすると徐々に変化が始まるってあったけど、色も、な
んだか変わってきたみたい。
ずいぶん、雪洞の毛の色が濃くなってきたわ。
銀と灰色の混じったような……肢の先には、なにかしら、ふわふわしたものが生えてきたわね。
孵化したばっかりで毛替わりの時期ってことはないわよね。このまま伸びるのかしら。自前で飾り毛
を持ってるなんて、身だしなみに気を使う子なのね。
◆ 灯記11hd-01: 星天航路図◆ 「星天航路図」という星図と、切符である鉱石、それらの使用方法などについて 述べた解説書のセット形式でした。 |
◆ 灯記11hd-01: 星天航路図◆ 鉱石は三種類のどれかひとつです。 ■銀星符:ギンセイフ ……ヘマタイト(赤鉄鉱石) ■蒼火符:ソウカフ ……ラブラドライト ■氷燐符:ヒョウリンフ……カルサイト(方解石) 年に一度、宇宙の何処かへの航路が開くのですが、鉱石によって、 たどりつける行き先が違います。 星の誕生の場処や、蒼い蝶の渡りや、不思議な氷の湖…… 鉱石の見た目や、それぞれの鉱石の見た目など特徴を使いました。 スペースで方解石の特徴を説明しているとき、8割くらいの人が、 「ああ、テレビ石!」と言われましたね。 テレビ石は浮かびあがる方ですよー、これはダブります。と、違いを説明。 テレビ石の有名さ加減に、むしろ、驚きました(笑) |
◆ 灯記11hd-01: 星天航路図◆ 月の力作である星図 折り本は、ええ……私の折り形式が、どうも普通の人とは天の邪鬼だったらしく すみません、たいていの方が、表紙の次に奥付の頁をめくる羽目になってました…… この解説書では、月のご所望どおり、瀬水ワールド全開に、きらきら言葉を飾って 非常に楽しく書きました。 |
■蒼火符
夜天に蒼く燃え立つ火が渡る星域。
蒼火符は、あなたを蒼き蝶の輪舞へと導きます。
宇宙にのみ生息する夢幻の蝶は、蒼く美しい翅の色から蒼火蝶と名づけられておりますが、生態の殆
どが不明です。見た目は地上のモルフォ蝶に似ていますが、知れているのは、彼らが定期的に我々の航
行可能な星域を横切っていくということのみ。何処で生まれ何処へ行くのか等、研究しようにも彼らの
跡を追う術がありません。一説によると、蒼火蝶は、我々の宇宙とは別の宇宙に渡るのだそうです。
蒼火蝶の渡り観覧は、先導の蝶が現れるのを待つことから始まります。星の散りばめられた天鵞絨の
黒を背景に、やがて一頭の蝶が優雅に舞い出きます。「先触れ」と呼ばれておりますが、群れの中でも
力の強い蝶が交代で務める役割のようです。先触れの蝶は、まるで透明な円筒に沿っているように、大
きく大きく螺旋を描きながら飛びます。先触れの蝶が描いた螺旋の軌跡内が、蒼火蝶の群れが渡る道と
なるようです。
先触れの蝶が飛び去ってのち、しばらく待ちますと、ぽつりぽつりと蝶が舞い始めます。蝶の来る方
向を見晴るかしますと、遠くにあった数多の蒼い星が自分の方に寄せてくるような錯覚をします。やが
て、視界はすべて蒼火蝶の乱舞で彩られます。
地上の色は光を反射したものですが、蒼火蝶の翅は自ら光を放ち色を持ちます。翅の開閉によって角
度が変わり、偏光性を持つ翅が様々な蒼を揺らがせます。
蒼から蒼へと揺らぎ、幾千幾万と知れぬ蝶の翅が、めいめいにきらきらゆらゆらとさんざめき、どれ
ひとつとして同じ色のない蒼で打ち振られ、蒼い火にすべてが灼かれます。
我を忘れて見入るうち、蒼火蝶の群れは目の前を行き過ぎ、去りゆく姿を目で追えば、蒼く震える光
の輪郭をまとった一群は、生きた鱗におおわれた長大な竜とも見えるでしょう。
瀬水いう儀個人作品 -20110814- |
◆ is: 猫のオルゴール◆ 表紙は、一度くらいはやってみたかった「コラージュ」です あれ、難しいもんですな…… 自分の好きな要素はつめこんでみました。 |
◆ is: 猫のオルゴール◆ 頁の飾りも猫です。 「ちょっとした願いごと」を叶えてくれるオルゴールをもらったジラフ。 実は、願いごとを叶えてくれるのはオルゴールではなく、中に封じ込めら れている猫! 願いごとを叶えてもらうたびに猫が増えてしまうので、さあ大変。という 話です。 もっともっと、猫部分に頁を裂きたかった…… 星天航路図で、瀬水ワールドほぼ全開語りして、Little Eggでは飼い主の 年齢性別にあわせた語り口調で五人も書いたので、どちらともとは違う語りで。 かるーく読める、楽しい読み物、というつもりで書いたので、月が 「普段と違う。こういうのも書けるんだ……」 と、驚いてくれたので、成功。 幅ひろく、色んな書き方、話を書いていきたいんですが、こういうの好きと 言われれば、多分、瀬水ワールド全開でも、アリス風でも、少年でも、 まあ、苦手分野(きゃぴきゃぴしたの)でなきゃ、延々書けるとは思います。 今まで、瀬水の書いた話を読んでくださった方は、どんなタイプの話を気に入って くださってるんでしょうね。 よろしければ、感想などお聞かせくださいな。 |
ジラフは慌てて皮袋を拾いあげましたが、浮かれていて、紐をきちんと締めていなかったようです。
銅貨が袋の口から、こぼれました。
チャリンチャリンチャリンと、音は三枚分。
一枚だって、捨てていい銅貨はありません。街灯も少なく暗い夜道で、ジラフは転がる銅貨を追いか
けました。
一枚を踏んで押さえて拾い、一枚を飛びついては失敗して飛びついては失敗して三度目で拾い、二枚
の銅貨を握りしめて、転がる三枚目の銅貨を追いかけます。
せめて銅貨が四角ければ、こうも転がりはしなかったでしょうに、凸凹の道ではずみをつけた銅貨は
転がり転がって、建物と建物との狭間に転がり込んでしまいました。
街灯の灯りがかろうじて差し込み、銅貨が落ちているのは見分けられます。
ジラフは道に這いつくばって、狭間に腕を伸ばしました。狭い狭い隙間で、肘までは入りますが、肘
から先はとうてい無理です。
肩まで腕を入れられれば銅貨に届きそうですが、腕をねじ込もうにも肘がつっかえます。建物を押し
て隙間を広げようとでもするように、もう片方の手を突っ張りますが、当然、建物はびくともしません。
服の厚みが邪魔なのかと上着を脱ぎ、袖をまくってみましたが、指一本ほどの距離を縮めるのが精一杯
でした。壁でこすれた腕は皮膚が剥けて痛むし、壁に押しつけた顔も痛みます。
鞄の中から、銅貨を引き寄せるのに使えそうな、棒状のものを探しましたが、ありません。あきらめ
るしかないのか、と、道にへたり込んでジラフが肩を落としますと、背後から、小さな、かわいらしい
声で訊ねられました。
「取ってほしい?」
もしや、身体の小さな子供が通りかかって、見るに見かねて声をかけてくれたのかと思い、ジラフは
勢いよく振り向きました。
「取ってくれる? お願いだ……から……?」
振り向いたところに、子供はいませんでした。幻聴かと耳を疑ったジラフは、目も疑う羽目になりま
した。ジラフが片手でつかめてしまいそうな、ネズミほどの大きさしかない猫が、ジラフの鞄から出て
来たのです。小さな猫は、足取り軽く、隙間に入っていきました。本当に小さな猫ですので、隙間の狭
さなど、障害にもなりません。猫はとっとこと入っていって、銅貨をくわえて出てきました。
茶トラの小さな猫は、街灯の光を反射してきらきら光る目で、ジラフを見あげました。挨拶するよう
に首を傾げると、ジラフの膝に前肢をかけて、銅貨をぽとりと落としました。
「ボクは、お豆さん。あなたの、『ちょっとした願いごと』を叶えたよ。これから、よろしくね」