鉱石ランプ
-20101231-



◆千鳥飴
◆is07 虹を架ける灯台守





◆ 灯記10sw-01: 千鳥飴◆
本と、作中の登場する飴「千鳥飴」のセット形式でした。
ここに出ているのは、方解石、紫水晶、鱗雲母、ラブラドライト、かな。
鉱石の中には、本当においしそうな色をしているものが多いですよねえ。

鉱石を飴に見立てて、どんな味がするのか、どうやって作るのかなどを
本に記載。
鉱石ランプで取り扱っておりますのは、千鳥飴によく似た鉱石ですので、
絶対に食べないでくださいね。

双子の子狐、瑞葉と照葉が、宵闇さまのお祭りに遊びに行くお話です。
千鳥飴は、お祭りの夜店でのみ売っている飴で、舐めると酔っ払ったように
千鳥足になることから名づけられました。

千鳥飴には、鉱石の種類によって名前がついています。

■千鳥飴に似た鉱石
琥珀蜜……琥珀
氷の飴……水晶(紫・黄・紅・透明)
翠の水飴……翠色方解石
天の砂子飴……曹灰長石(ラブラドライト)
雲の繭飴……オーケナイト
虎の目飴……虎目石
透石膏……練り絹の飴
縞目の飴……縞目脳
など。




少しご紹介を。

 里の祭りで見られぬものも、宵闇さまでは売られています。  夜空にかかった梢から烏天狗が摘んできたぴかぴか光る星の欠片、竜神さまが水底で指した将棋の翡 翠の駒、異国の不死の鳥の冠羽根、潮の満ち干を操る宝珠、西に沈んだお天道さまを扇いで再び昇らす 扇。  わけ知り顔で眺めいるのは、懐手をした大人たち。  子供たちはちょこまかと、大事な小遣い握りしめ、何に使うか悩みます。  吹けば小さな虹かけてくるくる回る風車、離れていても耳打ちできる二つそろいの巻貝の殻、くわえ て呪文を唱えれば気配の消せる忍び草、見知らぬ景色の映る手鏡、思うままの目が出る骰子。  どれもこれもが宝ものに見え走り回る子供たちと、そぞろ歩きの大人たち。  中にはいささか足取りが危うい大人も混じっています。あちらへふらり、こちらへふらり。あれ危な いと転びそうに、一向おぼつかない足許です。  宵闇さまのお祭りですから、祝い酒をたんといただいて、酔っ払っているのでした。  いい心持ちになり、誰しもご満悦の態。  ふらふらよろめく足取りは、浜の千鳥が歩くよう。右へゆらり、左へくらり。酔っ払いの足取りを、 茶化して言うは、千鳥足。  大人にはおいしい酒ですが、子供がいたずら心でもらってみると、からいし苦いし、まずいもの。あ りがたがる気が知れません。もっとおいしいきれいなものが、宵闇さまでは売られています。  お宮に近い、とっときの場処。引きもきらずに子供が向かい、夢中で選むとりどりの、いっとき限り の内緒の飴。名づけられたは千鳥飴。  露店の台に広げられるは、夜天を切って敷いたような、黒地に星の散らばるさま。  黒い繻子のつややかな上へ、色も形もさまざまに、並べられたが千鳥飴。  色つきの、澄んだの、丸いの、四角いの。  子供たちが集まると、黒い着物を着た店主、心ゆくまでさあごらんと、提灯を近く寄せてくれます。 瑞葉も照葉も身を乗り出して、散りばめられた飴の数々、心奪われて見入ります。  鼈甲色につやつやと、濡れ輝くのは琥珀蜜。  透ける蜜のなめらかさ、表に霞みの空色写し、月にも淡く光ります。  蓮花の花の蜂蜜を、お天道さまの春の日で、とろとろ煮つめて絹で漉し、桜の木でこしらえた器にわ ずかずつ溜めます。  目蓋をそっと撫でるような、手足からめとる眠りの色は、蜜に黄昏に揺らぎます。器を傾けひと雫、 お皿に垂らした琥珀蜜は、こぼれる端から固まって、黄金色した飴になります。  たいそうやわらかい琥珀蜜は、ふれただけでも融けてしまいそう。口の中に放り込むと、温められて すぐさま融けて、いっぱいに広がる蜜の味。日だまりに連れていかれでもしたように、手足の先が暖ま り、足は蓮花の雲を踏みます。


◆ 灯記10sw-01: 千鳥飴◆
表紙の色は二種類です。
こういう落ち着いた和風は、当サークルでも珍しいですね。
本文も可能な限り、昔の雰囲気を出せるように、七五調に整えて
言葉選びに苦しみ楽しんだので、全体的にバランスが取れたのでは
ないかしら、と、私は結構、気に入っています。





◆ 灯記10sw-01: 千鳥飴◆
巾着に千鳥飴に見立てた鉱石を入れて、お渡し。
巾着にはタグつきです。表裏。
裏の小さい千鳥がかわいいですね。







鉱石ランプ
瀬水いう儀個人作品
-20101231-




◆ is: 虹を架ける灯台守◆
きらびきの紙に印刷したら写真に写すとよくわからず……
普通紙に印刷したものを並べてみました。





◆ is: 虹を架ける灯台守◆
菱形よりも卵形のデザインの方が、気に入っていたんですが、
表紙に使えなかったので、こちらに。

一人前になる前に、虹の灯台を継ぐことになってしまった「虹の灯台守」の
少年の話です。
灯台守は、代々伝来の特別な鍋で、純粋な色を煮詰めます。そうしてこしらえた
虹の珠に人の思いを込めます。虹の珠を灯台に据えて、虹を架けるのです。
色を煮るための鍋に穴が開いてしまうのですが、特別な職人でないと、鍋を
直せないのです。
灯台守は、職人を探しに出かけます――

友人という設定で、「夢渡り」と、貘猫が再登場。
自分に書ける範囲の話はたかが知れていても、なるべく色々なタイプの話を
書きたいのですが、貘猫は気に入っているので、機会があれば、また彼らの話を
書きたいものです。




少しご紹介を。

 大鍋に、色の小壜から少量の粉を鍋に振り出します。分量は、先代の灯台守からの直伝を守って、ほ んのわずかです。明るくきらめく粉を、鍋肌にそって模様を描きながら。  レンカが弟子入りしたばかりのころは、一色から始めました。一色が操れるようになると、二色、三 色と色を増やしていき、五色を混合出来るようになりました。灯台守は七色を操れて一人前です。しか し五色の段階で、先代は世を去ってしまいました。  未熟なまま灯台守を継いだレンカは、先代の覚え書きを基に六色まで混合出来る腕になりましたが、 どうしても七色で成功しないのでした。  材料の入った鍋は竈に運ばれ、火にかけられます。竈は小山の形に煉瓦を組み、鍋底をはめられるよ うに、天辺に穴を開けてあります。小山の側面に刳り抜いた口から薪をくべて火を熾し、鍋底に火を当 てる仕組みです。虹の灯台には調理用の竈とは別の竈があり、レンカが鍋を運んだのはもうひとつの、 通常の火を用いない竈でした。  普通ならば薪をくべるべき口には、金色の皿が一枚、敷いてあります。金の皿から目に見えない炎が あがり、鍋を温めるのです。  鍋の中で渦を巻いていた七色の粉は、じんわりと温められて、融け始めます。粉の輪郭が徐々に曖昧 になり、隣の色と手をつなぎ、ふつふつと沸き立ってきます。レンカは柄の長い匙を慎重に差し入れて、 色を驚かさないように混ぜます。息をひそめて静かに混ぜていくと、手をとりあった色が融けあって、 やがて透明になるのです。 「変な匂いがしない?」  レンカの作業を見守っていたシーリィですが、鉄錆めいた匂いがあたりに漂い始めて、鼻を動かしま した。貘は匂いに耐えかねたのか、外に出て行ってしまっています。  意気込んで鍋に向かっていたレンカは、緊張のあまり息を細くしていたのか、匂いに気づきませんで した。鼻をひくつかせ、顔をしかめます。鍋の中身に焦げた様子はなく、今度こそ成功しそうなのに、 何でしょう。首をめぐらせたり、鍋の縁で焦げついていないか探し回って、レンカは、突然に叫び声を あげました。  既に色のおかしな煙まで昇り始めていましたが、出どころは鍋の中ではなく、竈の焚きつけ口です。 レンカが慌てて耐熱の手袋をはめて、焚きつけ口から金の皿を引っぱり出します。大急ぎで鍋を抱えて 中身を壺に捨てると、室中に水蒸気と煙が立ちこめました。  シーリィが水蒸気と煙を窓からはたき出して振り向くと、レンカが鍋を掲げて呆然としていました。 鍋の底に豆粒大の穴が空いて、穴の向こうから壁がのぞいて見えます。  先代どころか、先々代も、そのまた先代も使い続けてきた大鍋です。七色の混合もものにしていない ばかりか、由緒ある鍋に穴を空けてしまって、レンカは力が抜けて、へたり込んでしまいました。